学問の小部屋

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アナログ・イコライザ

音声信号処理の中で、最もオーディオ再生において使用されるのがEQ(イコライザ)である。
主に周波数-振幅特性を補正する機器、機能として使用されるが、もともとはEqualizerという名前の通り、直訳して"等化器"の意味である。オーディオ用途だけでなく、無線通信の信号伝送における波形補正としても使用され、通過周波数のレベルをフラットに近くして波形を成形する。
現在のディジタル信号処理によるEQは、付属マイクによる自動計測が可能となってきたこともあり、ユーザーに見えないところで増々活躍している。サウンドバー、一体化コンポ、カーオーディオ、テレビなどにおいて、内蔵EQの性能は極めて重要である。ディジタル信号処理によるEQは、部品劣化や特性ばらつきの影響が基本的になく、コストも抑えられるので、現在ではアナログEQをメインにしている機器は少ない。オーディオ再生におけるイコライザは、アナログ全盛時代にはミニコンポ、カーオーディオに搭載されていたが、現在はディジタル信号処理が主流になり、独立したEQ機器の販売は下火となっている。これは、音質補正といっても一般ユーザーには調整が難しく、機能の効能がわかりにくいことが一因である。伝統的に、アンプ製品に調整が簡単なトーンコントロール機能のみが搭載されている程度である。現在も業務用機器ではアナログミキサーやギター用エフェクタにEQが搭載されており、積極的な音質調整に使用される。
ディジタル信号処理によるEQは別ページとし、本ページではアナログ回路によるEQによる音質調整について記述する。

トーンコントロール

BASSとTREBLE(バス・トレブル、高音と低音)の2bandのシェルビング・フィルタによる簡単なEQは、今もってアンプ製品に搭載されていることが多い。回路構成が簡単であり、また2つのダイヤルを回すだけで調整可能なので、手軽な音質調整機能として有用である。業務用の31bandのEQを用意したところで使いこなせない一般ユーザーが多いので、簡易的な機器にはそのような高精細なEQ機能は搭載する意味がない。特に高齢者でも購入する可能性が高いTV製品では、以下に述べるGEQなどを搭載する前に、基本音質調整機能としてのTONEコントロール機能は有用である。

GEQとPEQ

マニュアル・イコライザには大きく分けてグラフィック・イコライザー(グライコ、GEQ)とパラメトリックイコライザー(パライコ、PEQ)の二種類がある。アナログEQの正体は、回路定数を調整してQを設定したバンドパスフィルター(BPF)である。
GEQではスケーリングされた各周波数ごとにフィーダーが付いていて、直感的にどこの周波数をどれだけ調整かを決められるので、簡単に使えるという特徴がある。
PEQは中心周波数、レベル、Qの三つのパラメータを可変抵抗で指定してイコライジングカーブを決定する。 シームレスに中心周波数を移動させることができるため、GEQがカバーしていない周波数を中心に調整することもできる。PEQは自由度が高い分、設定をまとめるのが難しいという面もあるので、購入してすぐに使えるようなものではないことは心に留めておくとよい。

EQ調整

DSP組み込み機器ではプロのチューニングエンジニアが調整をしたうえで出荷されるが、一般ユーザーが自力で調整をするのはきわめて難しい。カーオーディオやテレビの音質を直感で調整しようとすると、大抵が全バンドを持ち上げて音量が上がったことに満足して終わってしまう。最近のAVアンプではマイクを使った自動音場解析・補正機能が内蔵されているものがあるのでこのようなときの調整はとても楽になった。音場解析によりスピーカと部屋の特性を把握しておくと、どうすれば音質をよくできるかの方針が立てられる。EQをかけるとよいのか、部屋に問題があるのか、定在波が顕著なのか、低音が不足しているのかなど、解析結果から得られる情報は多い。最もよいのは、EQをかけなくても十分にフラットな特性が得られていることである。

ハウリング防止EQ

イコライザのうち、PA用途のハウリングを抑える用途のフィードバックキラーといった製品では、急峻な振幅ディップ特性をもつノッチ・フィルターが使われる。

イコライザーの具体例

いくつかの特徴的なEQや実際に手にしたことのあるEQを取り上げて紹介する。

BEHRINGER FBQ6200

アナログEQのFBQシリーズの最上位機種で、フィーダーの可動範囲が広く微調整しやすい。ただフィーダーの動きはあまり抵抗感がなくスカスカする感じがある。(CEQ、SH-8075と比較すると顕著) 赤色LEDがフィーダーのつまみに入っている自照式であるため、明かりを落とした空間でのPA用途にも適している。自照式フェーダーを簡易オーディオアナライザーとして使おうとすると、フィーダーがばらけている状態では周波数特性をチェックしにくい。電源スイッチは裏側についており家庭用途ではこれは少し使いにくいかもしれない。PA用途では誤って電源を落とさないような配慮と解釈できる。ピーク検知機能はPA時のハウリング防止に便利である。グラウンドはシャーシに接続されている。内部配線はディジタル信号用のようにプリントパターンが細く、過大入力に弱く断線しやすいので、音が出なくったときには入力の配線を補修することで直る可能性がある。

ClassicPro CEQ231FL

LEDを上部の横一列に並べてあるので、簡易RTAとしては多少使いやすい。 その分フィーダーの稼動範囲はFBQ6200に比べて小さくなっている。 微調整が必要な場所ではフィーダーは広い方がよいので、FBQの幅広自照式フィーダーとは一長一短である。
電源スイッチは前側に付いている。こちらはどちらかといえばスタジオ向けの構成でありFBQとは見込む用途が異なるように思う。
内部回路は昔ながらのディスクリートパーツが使われている。この方が手動での修理はしやすいものの、FBQのようなチップパーツを使った方がコストは下げられる。
電源部は各chで独立している。電源トランスはトロイダルタイプとは違って普通の形をしており、このあたりにもコストダウンの影響が出ている。 サウンドハウスに問い合わせたところ中国製とのことで、壊れやすいというレビューが多い。

Technics SH-8075

アナログGEQ製品が下火になったことで、アナログGEQの最高機種はこの機種ということになる。33バンドGEQ+低域専用の1バンドPEQまで備わっている。 フィーダーには常時点灯の自照式フェーダーとなっている。暗い空間でのPA時にもイコライジングカーブが確認しやすいようにという意味での配慮と思われる。内部回路はオペアンプを適宜使用したすっきりとした構成であるが、物が古いので当時の性能は維持できていないことが多い。8075は前期ロット品は回転つまみが銀色で、後期のものはボディに合わせて黒色である。ハイファイ堂メールマガジンのバックナンバーに内部回路が紹介されている。

Phonic i7600

1UラックマウントサイズのディジタルGEQである。ディジタルEQなのに入出力はアナログしかない。特筆すべきは、マトリックスLEDを使った30バンドRTA機能が搭載されていることである。20dBのレンジでリアルタイムでFFT解析グラフを表示できる。 ただし、RTAはゲートタイムを最短にしてもそれほど滑らかではない。RTAとしての使用を検討したが、PC上のFFTアナライザの方が高機能高精度となり、使用を停止した。
phonic代理店のサウンドハウスによれば、Phonicの経営方針の転換により製品の品質、保守性を維持するのが困難になったため取り扱いを取りやめたとのことであった。