学問の小部屋

ここは学問の黒板です。

モバイルオーディオ

スマートフォンの普及に従い、モバイル機器で映像、音楽を楽しむユーザーが増えたことで、俄かにモバイルオーディオが盛況である。

音漏れ

モバイルオーディオにおいて最も気を配る必要があるのは音漏れである。音質以前に、屋外で音を出す上では周囲への気遣いが重要である。音漏れを防ぐには背面密閉型構造にする必要があるが、ドライバ背面を密閉すると、背面側の空気室の弾性が上がり、f0が上昇するため開放型に比べて低音が出にくくなる。ドライバは背面開放型である方が望ましいことになるが、背面を開放することで騒音が筒抜けとなるので、屋内での使用が必要になる。モバイルでの使用を前提にするならば、ヘッドホンは密閉型でなければならない。イヤホンはもともと音圧が低いが、昔から電車内でのシャカシャカとしたイヤホンからの音漏れがうるさいといった話題があることを考えると、将来は音漏れ検知システムの搭載が必要かもしれない。

装着感

長時間装着していても耳が痛くならない装着感を実現するには、ヘッドホンならばイヤーパッドを柔らかくしなければならず、装着状態が安定しないのでメーカーが想定する音質が安定しない。カナル型イヤホンは耳を覆わないので、耳たぶが痛くなることはないが、人によってはカナル型の装着感が苦手という話も聞く。耳を塞がない方法には、骨伝導ヘッドホンを利用する方法もあるが、残念ながら音質は期待できない。このように、目的によって使用すべき機器の形態は異なる。

動電型ヘッドフォン

動電型ヘッドホンのドライバにも様々な形があるが、基本形状はドーム型スピーカに近い。最低共振周波数は200Hz程度などである。フルレンジ再生を考えるとf0が高すぎる印象もあるが、再生時にはイヤーパッドと耳の間に密閉空気室が配置され、低周波が弾性制動領域となるのでf0以下を難なく再生できる。動電型ドライバには、ダイナミックスピーカと同じくボイスコイルを使ったダイナミック型、狭帯域高感度なバランスドアーマチュア(BA)型などがあり、イヤホンではBA型が主流であるが、広帯域を再生するにはドライバを複数使用する必要があり、高価になりやすい。

静電型ヘッドホン

伝統的な静電型スピーカは、特に日本のような高温多湿環境では運用に難があり、普及していない。しかし、ヘッドホンタイプにすることで大部分の困難を克服できる。市販品の静電型ヘッドホンは静電型マイクと同じく、導電材を塗布したフィルムに均等に張力をかける必要があるので、製作に職人芸が要求される。
静電型ヘッドホンは、動電型ヘッドホンよりも振動板を大きくしやすく、また振動板の大部分を均一に振動させやすいので、低音再生に有利である。また、振動系が軽いので、過渡特性も良好である。しかし、必要な駆動電圧が高いので、一般的なヘッドホン端子では駆動できないという大きな欠点がある。
近年のモバイルオーディオの隆盛により、少数のメーカーが静電型ヘッドホンに参入してきているが、静電型ヘッドホンの最も伝統的で著名なメーカーはスタックス社である。STAX社によれば、幅広ケーブルと標準ケーブルでは30-40%程度の線間容量の差があるそうである。この情報と公開スペックから計算すると、STAXイヤースピーカー本体の静電容量は100pF程度、ケーブルの線間容量は15pF-30pF程度である。電気音響変換に関係する本体の静電容量は、意外なほど小さいことがわかる。
また、電子工作の趣味の中で、真空管や高耐圧FETを利用したSTAX製品用アンプも試みられてきている。従来からあるドライブアンプは、ハイゲインアンプを出力段とするか、昇圧トランスを使うことでSTAX製品のドライブを実現している。高圧にさえ気をつければそれほど難しい工作ではなく、様々な作例が発表されてきた。


kazimaはエネルギー変換効率の改善を考え、SONY製フルディジタルアンプTA-F501を用いたSTAXドライブ・システムを考案した。ドライブ信号はアンプ出力を直接使用し、DCバイアスを発生させるアダプタを挿入することで、STAX製品をフルディジタルドライブ可能である。専用コネクタはSTAXから一個1000円で購入した。DCバイアスには冷陰極管点灯用のインバータTDK-Lambda製CXA-P1212B-WJLを採用し、コッククロフト式倍整流回路でDCに変換してバイアス電位を得る。DCバイアスは、700V程度であれば安定動作可能であった。TA-F501の出力インジケータが0dB程度のときに適切な音量であった。

頭部伝達関数

市販の音源のほとんどは、ダミーヘッドや実頭を使用したバイノーラル録音でなければ、基本的にスピーカでの再生を想定している。ヘッドホンやイヤホンを使用すると、本来鼓膜まで音波が到達するまでの特性変化が畳み込まれず、想定した音質、定位感が得られない。ヘッドホンによる単純再生では、一般に頭内定位(頭の中や上方から音が聞こえる)を起こす。このような空間による特性を頭部伝達関数(HRTF)と呼び、その分析や再現が古くから研究対象となっているが、第一に個人差が大きい。一般に、他者のHRTFを畳み込んだ結果は後方や下方をうまく再現するが、肝心の正中面定位が得られず、一般にこめかみより前方には定位しない。しかし、対象者と同じ形のダミーヘッドを使用した実験により、正しい形状でHRTFを計測すれば正中面定位が得られており、純粋に個体形状に依存していることがわかっている。正確な再現には個別測定が必要であり、実際にHRTFを業務で使用しているNHKのスタッフなどは、自身のHRTFを測定した結果を持ち歩き使用している。このようなサービスを一般ユーザーに提供している製品は、現在のところほとんどない。モバイル再生ではプレーヤに十分な信号処理能力が備わっていることが多いので、ちょうど本記事を掲載した時期に発表されたJVCのサービスのように、自分のHRTFを実測した特性をクラウドからダウンロードして、アプリ上で畳み込みながら再生するようなシステムが様々なメーカーから提供されると予想している。

必要な出力

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