学問の小部屋

ここは学問の黒板です。

ラインケーブル

家庭内ではプレーヤとアンプをアナログ接続する際に使用する程度のラインケーブルは、業務用機器の配線でも欠かせない部品であり、トラブルを防ぎながら運用するためにも正しい知見が必要である。

抵抗

スピーカーケーブルにおいては抵抗値が無視できない重要なファクターであるが、ラインケーブルでは考慮してもあまり意味がない。市販機器ではかなり低い出力インピーダンス50Ω(ケーブルの抵抗の影響が出やすいように低めに見積もった)のアナログ出力端子を使用し、抵抗値が10mΩのケーブルから1mΩのケーブル に替えたとすると、出力インピーダンスの変化率は(50+0.001)/50+0.01)=0.9998...と、 0.0002(0.02%)程度しか変化しない。抵抗値の低さを売りにして、銅よりも10%ほど抵抗率の低い銀を使用したラインケーブルが売られているが、銀線を使用することによる合計の抵抗値の変化はないに等しい。

線間容量

芯線とグラウンド線の間の静電容量により、出力インピーダンスの高いギターシールドケーブルでは高音域の減衰が聞こえるレベルで生じ、LR芯線がシールドで分離していない3.5Φステレオミニケーブルでは高周波側から正相クロストークが実測できるレベルになるが、同軸のラインケーブルであればこれらは基本的に影響しない。

単芯線と多芯線

単芯線は硬く保持力が強いので、一度設置したら動かさない、アンテナ線などに使われる。屋内の電力配線も単芯線である。しかし、人間が手で扱い何度も曲げたり着脱するところに使うときは、柔らかい多芯線の方が使いやすく、オーディオ機器では基本的に多芯線である。

ケーブルの太さ

ラインケーブルでは抵抗を論じても意味がないので、太さが問題になることはほとんどない。むしろ、できるだけ細くすることで取り回しが楽になる。ケーブルを太くするとコネクタに負担がかかり抜け落ちる危険性が高まるので、なるべく細い方がよい。

コネクタとプラグ

オーディオ機器のケーブルは人間が手で扱うので、コネクタ部分は手でつまめる程度の大きさがある方が望ましい。SMAなどの高周波用コネクタはインピーダンスマッチングの観点からサイズが小さくなっている。また、ケーブルの管理運用においてもっとも問題となるのは、直接空気に触れるコネクタ部分の酸化である。ケーブルを替えて音質が変化したとすれば、コネクタの接触の変化が原因である可能性が最も疑われる。
オーディオ機器で最も一般的なRCAプラグは機械精度にはっきりした規格がなく、プラグとコネクタの寸法の相性によって差し込んできついもの、緩いものなど様々であり、特に緩いものは錆びの影響が出やすく長期使用時には問題が出やすい。プラグのメッキ、特に金メッキはメッキ被膜が薄く、USBケーブルなどを含め、民生品のケーブル接続における保証挿抜回数はせいぜい1000回程度でしかないので、何度も抜き差しするとコネクタの内側が摩耗し、接触不良を起こす。ケーブルは容易に交換できるが、機器のコネクタはそうはいかない。きつい締め付けで接触を保つような構造のものではなく、バネ支持により接点に圧力がかかることで接触を保つものの方が望ましいが、RCAプラグはもともとバネ性に乏しい構造をしており、次に述べるXLRケーブルの方が接触の信頼性が高い。

ステレオミニケーブル

SONYが開発した3.5Φステレオミニ端子はイヤホン、ヘッドホン用端子として普及しているが、両側ステレオミニのケーブルはステレオの2系統配線をひとつのシールドにまとめて入れてあるので、上で述べた通り線間容量の影響を直接受け、クロストークが悪化する。

測定データはASUS XonarD2Xというサウンドカードを使用し、RMAAproという計測ソフトでLRクロストークを測定した結果である。このサウンドカードはAD/DAチップに最高グレードのものが使用されており、チップスペックとしてはLRクロストークは出ないが、カードの入出力端子はステレオミニ端子であるから、ケーブルによる影響を計測しやすい。手持ちの1m,2m,5mのステレオミニケーブルケーブルを使用し、クロストークをRMAAループバックで計測した。その結果、5mケーブルでは1kHz以上で無視できないクロストーク成分が観測された。この結果から、ケーブルが長くなるほど線間容量の影響が大きくなり、クロストーク特性は簡単に測定できるほど悪化することがわかる。
よって、ステレオミニ端子しか備えていない機器を使うときは、極力根元からLRが分離しているケーブルを使うかRCAへの変換アダプタを使う方がクロストークの影響を抑えられる。特にイヤホン、ヘッドホンではクロストーク量が定位に直結する。ただし、かなり極端な悪条件でないとクロストークの影響は出ないことに留意すべきである。

三芯バランスケーブル

業務用で使われる三芯のXLRバランスケーブル(通称キャノン)は、特に微弱信号を長距離伝送するとき、あるいは伝送路における耐ノイズ性を高めるときに有用である。作動出力で信号を送ることによって同相ノイズ(コモンモード・ノイズ)を打ち消すことができる。誘導性ノイズに対してはRCAケーブルのような静電シールド線では無力であるが、バランスケーブルは誘導性ノイズに対して頑健である。また、コネクタとプラグの信頼性が高く、接点のバネ支持や抜け止めのロック機構も規格化されている。しかし、家庭内のオーディオ機器の接続程度でバランスケーブルを使用しなければノイズが乗るのは異常な状況であり、ケーブルでの対策を考える前にノイズ源を探す方がよい。数m程度の家庭内の伝送距離でノイズが問題になるような機器は壊れているか、欠陥品である。