学問の小部屋

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チェロ本体

チェロ本体が発音する原理は、弓で弦を擦ることにより発生した振動が弦→駒→表板→魂柱→裏板と伝搬し、 裏板の振動が音波としてf字孔から輻射されることで楽音を生じるというものである。 このため、各部材の素材は音の伝搬特性がよいものでなければならない。 魂柱や表板にはスプルース(松)という木材が使われており、これは低密度で比重が低く非常に共振性の高い素材である。 また比重の低い木材は経年変化により水分が抜けてより軽く響きやすくなるため、基本的に木製楽器は古い方が性能がよいことになる。 一般に弦楽器の寿命は400年と長いと言われるのは、実際に400年前からヴァイオリン属の楽器の基本構成が変わっておらず、ストラディヴァリウス等の300年ほど前の楽器が演奏に耐えるからである。 しかし400年を経過した最初期の楽器はすでに楽器としての寿命を迎えており、日常的な使用には耐えないようである。 すると通常の経年乾燥による品質向上は300年あたりがピークと言えそうである。 しかしながら、このような長期間の経年変化により品質向上が見込めるのは元々の品質が高く大切に使われてきた傷の少ない楽器だけである。 ほとんどの楽器は300年もすれば色々な要因で壊れてしまい残らない。 また、元々の工作精度が悪い楽器はいくら材質が向上したところでやはり大したことはなく、見た目だけは「オールド」らしい風格が出てくるため騙されて買ってしまうこともあるようである。 同じ楽器なら300年経過したものの方がよいのは間違いないようであるが、そんな比較はできないために本当に300年分の経年変化に意味があるかどうかはわからない。 音質は弾き込むほどよくなるということも間違いとは言えないが、楽器の基本的な音色は完成時点で決まってしまうようである。 それ故にオールド楽器などといっても出来損ないは出来損ないであり、新作でもよいものはよいのである。 数十年後の音色に期待して放置するよりも腕を磨くことの方がはるかに重要であることは言うまでもない。 実際、楽器の出音は 腕前>>工作精度と材質>その他 であり、入門用の楽器でも達人が弾けば人を感動させることはできる。