学問の小部屋

ここは学問の黒板です。

高気密住宅と薪ストーブ

高気密高断熱住宅には24時間換気システムが付属する。気密構造にすることで冷暖房効果を高め、換気により湿気のこもりやカビ発生を抑える。吸気と排気を換気扇で調節するのが一種換気、排気のみを換気扇でするのが三種換気である。ランニングコストを抑えるために、我が家は三種換気で施工されている(一種換気は概して三種換気の2倍の換気扇用の電気代がかかる)。高気密高断熱工法は従来の日本の開放型建築と対照的な工法であり、気密住宅特有の留意点が存在する。その最大の問題が、室内での燃焼行為である。キッチンのコンロだけは元々の換気量の設計に含まれ、施工時に万全の対策をして頂いた。
我が家には施主の思いつきにより薪ストーブが設置されている。施主は見た目と暖房効果だけを考えて薪ストーブを導入したようである。薪ストーブで燃料が燃焼したあとの煙は煙突から出ていかねばならない。しかし、三種換気は強制排気のみのシステムであるから、煙突によって室内が外気と繋がると、ストーブ自体が吸気口となる。煙突は暖められた空気による上昇気流により自然排気するシステムであって、排気が十分な温度に上がらないと排煙されない。三種換気により常時室内に向かって吸気されている構造で薪ストーブを燃やすと、温度が低い間は煙が室内に逆流することになる。また、火を消して温度が下がってきたときも同じことが起こる。このように、三種換気と薪ストーブは相容れない存在である。
一方、薪ストーブには大きなメリットもある。石油も電気も使わずに暖房が可能なので、災害時などには絶大な効果を発揮する。また、排煙の品質を問わなければ廃材を燃料にすることもできる。そこで、薪ストーブは撤去するのでなく、3種換気でも使えるように検討した。
現在の我が家の薪ストーブは、本間製作所製HTC-60TXである。中型の二次燃焼機能搭載の現代的ストーブとされている。
ホンマのストーブ(本社は新潟県)は、見た目こそ欧米の有名メーカーに準ずるデザインをしているが、残念ながらその実情は中国製の安物ストーブに毛が生えた程度で、工作精度などもお世辞にも良いとはいえない。本間製作所は昔ながらのダルマストーブ、あるいは時計型ストーブを生産してきたメーカーであり、エアシャワーによる二次燃焼や燃焼触媒を利用した現代薪ストーブを生産し出してからは歴史が浅い。しかし、ストーブ運用において最も大切なのは煙突設計であり、優れた煙突を設置すればストーブ本体はホンマでもあまり不具合はなく(それでも我が家の場合は三種換気という致命的欠点とは戦わねばならない)、購入したストーブをできる限りそのまま使用することを試みた。

炉台

本製品は本来、20畳くらいの大きな部屋の中央に配置し、部屋全体を暖めるために使用される。薪ストーブは全方位に熱を輻射するので、部屋の中央に置くのが最も効率的である。ところが、薪ストーブを設置した我が家のリビングは精々14畳程度しかなく、しかも部屋のコーナーに炉台を設置したため、非効率的かつアンバランスな構成になってしまった。薪ストーブ本体の大きさは我慢するとしても、コーナー配置の場合は様々な配慮が必要である。
薪ストーブにおいて、もっとも重要なのは煙突の設計と炉台の防火対策である。 煙突と炉台の品質に比べれば、ストーブ本体が安物の中国製であろうが大した問題ではない。いかに煙突と炉台で万全の対策をするかが、家事を起こすか起こさないかの分かれ目である。
特に、炉台の造りが悪いと壁面に熱が浸透し、低温炭化現象を起こして最悪の場合発火する。そのため、炉壁は空気の対流を利用して直接熱が当たらないよう、壁面に炉壁レンガを直接接着せずにレンガ1個分程度の隙間をつくる構造にするべきである。 残念なことに、施工時の知識不足によりこの構造も取られておらず、壁面にレンガが直接当たる構造で固定されてしまった。 このため、一度は炉壁を解体して作り直すことも検討した。しかし、炉壁にそこまでの予算をかけることはできなかったため、現在の構造でできる限りの対策を施すことにした。

炉台の構造を変えられないならば、追加部材で断熱構造を強化するしかない。 そこでt=0.8mmのステンレス遮熱板を炉壁表面に追加し、できる限り熱を反射できるようにした。


写真では、ストーブ背面と右側側面にステンレス遮熱を立てかけている。更に対策するならば、立てかけた上面付近に炉壁との空間を設け、上方から空気が抜けるようにして対流構造をつくることになる。 ストーブと炉壁の距離は精々20cm程度しかないものの、現状で燃焼時のレンガ炉壁の温度は50℃に満たなくなり、十分な対策となった。 遮熱板はヒートリフレクタとしても機能するので、炉壁を暖めるはずだった熱を部屋側に反射して、より効率的な暖房効果が得られる。壁二面の遮熱板のコストは1.5万円程度である。
炉台のすぐ隣にはテレビとスピーカが置いてあり、テレビ側への熱伝導状態を検証した。燃焼状態にしてスピーカの温度を測ったところ、40℃にも満たない状態であり、現在の構成では対策は必要ないようである。

さらに、室内の安全性を少しでも高められるよう、炉台近くと隣にある寝室に一酸化炭素警報機を設置した。十分安全なCO濃度のうちに、大音量で警報が鳴る警報機を設置している。電池駆動で5年間は使用できるようである。
ところが、この警報機を設置してから1年も経たないうちに電池不足のアラームが鳴り始め、使用を中止した。このような警報機は意外と電力を消費するらしく、こまめなメンテナンスが必要のようである。警(報機が作動しないのではストーブを安全に使えないので、現在は薪ストーブの使用は中止している。)

室内煙突



現在の室内煙突は、ストーブトップから立ち上げ、シングルスライド煙突→二重T曲→横引き用二重煙突を経て室外に接続している。(ストーブトップには煙突ダンパーを接続する予定)全二重化するとストーブ本体のメンテナンスが困難になるため、メーカーでもストーブ直上はスライド煙突を推奨している。
ホンマ製作所のハゼ折り二重Tは、写真で示したT曲の蓋の中央部分に孔があいている。三種換気住宅でこのまま使用すると、孔の部分から外気が吹き込んでくる。 そこで耐熱シリコンシーラントを使って孔をふさぎ、気密性を確保した。 メーカーでは何らかの意図でこの孔をあけたのかもしれない。しかし、ストーブを使わないときにも隙間風が吹き込んでくるのでは話にならないため、孔を塞いだ。 スライド煙突を使わなくても煙突の取り外しが容易であれば、ストーブトップまで全二重煙突化してより気密性の高い構成にすることは可能である。 この場合、二重Tの点検口を使って横から掃除する必要性がないので、二重T曲でなく90度エビ曲を使った方がドラフトは強力になる。
また、気密住宅ではできる限り室内空気をストーブ内に送り込まないようにすべきであり、煙突ダンパーは貴重な火力調節弁となる。よって、気密住宅では全二重化するよりも煙突ダンパーを使用した方がよい。
焚きつけ時に炉内に煙が充満したとき、現在ストーブトップに接続しているハゼ折りスライド煙突のカラーの部分から煙が漏れたことがあった。これは煙突の高さが足りず、ドラフトが弱すぎるのが原因であった。スライド煙突である以上は若干の隙間が存在するのは当然とはいえ、事故防止のためには目止めをする必要があるので、見た目が悪くなるのを甘んじて受け入れてアルミテープで目止め処理を施した。 断熱材を充填した二重煙突であれば、このような処理は必要ない。見た目の改善にも、ストーブトップ周辺の改善は必要と感じている。

屋外煙突


煙突は垂直に立ち上げるのが最も上昇気流効果が高く、曲げれば曲げるほど煙突としての品質が悪くなる。 新築時に薪ストーブを入れるなら煙突を屋根抜き構造にして家屋と一体化すればよいのに、当初我が家では壁抜きの90度曲げ煙突構造で施行された。
一枚目の写真は煙突建設当初の状態である。知識不足により、 当初は煙突の接続に直角曲げしか使われていなかったため、 横引き長さが最大となる設計となっていた。これでは煙突効果が活かせないので、 できる限り横引き長さを縮められるように、壁面からの外出し部に直接45度曲げを接続して、屋外部の水平横引き部をなくした。

二枚目の写真は煙突の横引き構造をなくした結果である。 単管パイプを支柱として横引き煙突の下から荷重を支え、壁出し直後から斜め45度曲げ煙突を接続し、直筒煙突で軒から引き出してからさらに45度曲げ煙突で垂直に立ち上げている。このようにすると屋外にT曲げ煙突を配置せず、室内から煙突掃除が可能となる。煙突掃除用ワイヤは90度曲げに対応しないので、45度曲げで立ち上げる必要がある。 しかし、この状態ではまだ完成とは言えない。これでは垂直に立ち上げてからの煙突の高さが足りない。さらに2本の直筒を追加して高さを稼ぐ予定である。その際は単管パイプの支柱を追加して煙突のガイドとすることが望ましい。

また、煙突はホンマ製作所製のφ150空気断熱二重煙突が使用されており、この製品は様々な欠陥を抱えていることがわかった。
空気断熱といってもただ煙突を二重にして空気層を設けているだけで、本来入っているべき断熱材が入っていない。そのまま施工すると二重煙突の外側の気密性が全然取れないため、空気が簡単に入れ替わってしまい全然断熱性が確保できない。 そこで一度煙突をバラバラに分解し、その接合部に高密度グラスウール断熱材を詰め込んで気密性を確保した。このとき、接合部の両側に断熱材を入れるとしっかり挿入できず接続できなくなるので、片側のみしっかりと詰め込んで、反対側には僅かにフレームの穴に蓋をする程度に薄く詰めるのがよい。

留意点はまだある。本煙突の素材はSUS430である。ステンレスのグレードのうち、SUS430は安価であるものの品質が劣る素材であり、屋外で使用すると雨で錆びる可能性がある。
煙突にステンレスが使われるのは、二重煙突のうち内側は排煙のタールによる腐食を防ぐためであり、外側は雨による錆びを防ぐためである。このようなとき、SUS430を使用するのは間違っている。同じホンマ製作所の製品でも「スーパー煙突」は高品質なSUS304が使用されており、価格も大差ない。なぜホンマ製作所がこのような低品質な煙突を未だに販売しているのか、理解に苦しむ。しかし、煙突にすでに20万円ほども投資してあったため、全部をスーパー煙突に交換するには予算が厳しく、既存の部材をうまく使って納得できるレベルの煙突に仕上げた。SUS430を使用しているために、屋外部の錆びは甘んじて受け入れる。それでも塗装品であるから10年は軽く持つであろうから、寿命を迎えたら全部スーパー煙突に交換するか、薪ストーブをやめるかであろう。
ホンマ製作所には、是非空気層二重断熱煙突をスーパー煙突に接続するアダプタを開発して頂きたい。SUS430の煙突は、今後段階的に終息するべきである。

薪ストーブ本体


冒頭で述べたように、薪ストーブ本体は、ホンマ製作所のHTC-60TXという機種を導入している。炉台はフローリングの上に直接石膏ボードとレンガを敷いているので、床面への熱伝導について考える必要がある。炉台が地面からすべて不燃材でできているのであれば、特に対策は必要ない。また、実際に運用してみて大して温度が上がらないことは確かめられているものの、 より安全に運用するためにという意味で対策を検討した。
60TXはボトムヒートシールドなどはつけられない。そのため、床面から本体までの距離をとるために、耐火レンガを足元に敷き、高さを稼いだ。 その結果足元への暖房効果は弱まるものの、元々暖気を床面に吹き付ける構造を持っていないのであまりデメリットはない。ただし、重心が高くなるので、転倒には十分注意するべきである。

外気導入

60TXは中国製であることはともかく、その設計にはいくつも気になる部分があった。 その最大の問題点が外気導入口である。 いくつかのホンマ製作所のストーブは、有料オプションで外気導入加工が可能である。 外気導入とは、気密住宅など室内空気を燃焼に使うことが困難な場合に、 屋外の空気をダクトを通して取り込む手法である。
屋外ガラリはステンレス製の標準的な品質、ダクトはφ106のアルミフレキシブルチューブが使われており、これには特に問題はない。 導入加工をするとストーブ本体の背面にφ60程度の孔をあけ、そこから一次空気室に外気を導入することになる。ストーブ本体にはスライド開閉式の外気導入アダプタを接続する。アダプタのスライドは、薪ストーブ稼働状態ではとても手で触れないので、動的な空気調節には使えない。


本体の裏板はただの丸い孔を開けるだけで、目止め加工がされておらず、ダクトを接続しても空気が横から漏れてしまう構造になっていた。その後情報を集めたところ、メーカーではわざとダクトに隙間を設け、ストーブないがダクトを介して外気と直結しないようにしていることがわかった。これは、壁を貫くダクトと直結したとき、ストーブからの気流が逆流してしまった場合に壁に直接熱気が当たり、火事を起こす危険を考慮してのことと思われる。しかし、そのような設計ではそもそも三種換気では外気導入として使えないので、本来これは非気密住宅で外気を導入する場合に使用されるアダプタと思われる。
そこで、シリコンシーラントを使って外気導入アダプタのスライドプレートの隙間を塞ぎ、さらに本体とアダプタの間でガラスロープで目止めをしたところ、大部分の空気漏れは防ぐことができた。しかしストーブ本体とアダプタの間の目止めは完全でないので、室内で使用し続ける場合には耐火モルタルで目止めを強化する予定である。室内での使用を諦めるときは、外気導入アダプタを撤去して孔を塞いでしまうのがよい。
さらに、本アダプタの設計は二次空気が通る領域を金属管が貫く構造になっており、せっかく外気を導入しても一次空気しか提供できない。60TXは背面下部から二次燃焼空気を取り込む構造になっているので、アダプタの一部を切り取って二次空気にも提供できるようにすればよりよいと思われる。 金属の円筒の一部に孔をあけるか金属ノコで切り取ればよいだけなので、いずれ加工しようと考えている。60TXの設計では二次空気、三次空気は室内の空気を使用するしかなく、これでは外気導入のメリットがほとんどない。煤を低減しようと二次空気を導入しようとすれば、室内の方が陰圧であるから煙が逆流してくる。このような設計の薪ストーブを三種換気の気密住宅で使おうとすること自体が間違っている。

色々と工夫を検討したものの、三種換気でホンマストーブを使いこなす方法は結局見つけられず、現在は飾りになってしまっている。
何らかの方法でうまく使用できないか、構想を練っているところである。

2016 1/17追記
その後、鋳物製薪ストーブは売却し、薪ストーブの検討は終了した。