学問の小部屋

ここは学問の黒板です。

詐欺と利己主義

先日NHKスペシャルで「職業・詐欺」という番組が放送された。
振り込め詐欺師のドキュメンタリーであった。

その中で「自分さえ儲かればそれでよく、他人のことなどどうでもよい」というナレーションがあり、詐欺は騙されるほうが悪いと考えている詐欺師を批判する内容があった。
一見、このようなスタンスは身勝手で非倫理的であるように見える。

これを企業に置き換えて考えてみよう。
「自社さえ儲かればそれでよく、他社のことなどどうでもよい」というのは、ほとんどの民間企業においてあてはまることではないか?そもそも自由主義経済に基づく健全な競争とは、本質的にそういうものではないのか?
業務提携とは、提携することで自社に利益があるから行うのであって、提携先に儲けさせることを目的とするものではない。
反対に競合他社との利益の配分を考えて相談しながら企業行動を行うことを談合というのではないのか?

国家でもそうである。基本的に国は自国の繁栄がすべてであって、他国や他国民の状況が悪くなっても、その結果として自国に損失がないのであれば、「人道援助」以上のことはしないのが普通である。
でなければ戦争など起こらない。
例えばシンガポールでは外国人の出稼ぎ労働者は徹底的に就労ビザで管理し、経済が停滞して国益にならなくなればすぐに放り出す国策を取っている。シンガポール政府にとって大切なのは自国と自国民である。
日本がもし移民を認めれば移住したいと考える外国人は多々いるだろうが、日本政府は日本人の利益を守るために移民を認めていない。

更には家庭、個人でも、このような一見して自己中心的だと批判される態度は往々にして是とされている。ただそれを自己中心的と見ないだけである。

すなわち、利己主義とは自由主義に必ずつきまとうものであり、法律、倫理、マナーに反しない限りは是とされる。「正々堂々と戦う」のは利己主義に立っているからである。
もちろん、一般に自己中心的だ、利己的だと批判されるのは、対象が法律、倫理、マナーに反している場合がほとんどであって、今回の論では常に利己的な考えでいけばよいということを主張しているのではない。

一方で、市場経済原理主義、利己主義というものは正当競争を説明する以外の部分でも威力を発揮することがある。
例えば、各々が「自分の利益、権利を主張する権利」を平等に持つのであれば、国内法の適用範囲で規格化すればそれ即ち法の下の平等を説明する。
また、以前話題になった「なぜ人を殺してはいけないのか」という問いかけに回答を与えることができる。人を殺すことはその人の持つ生きる権利(人権)を剥奪することである。殺人者と被殺人者の人権はお互いに侵食しないので、殺人者は人を殺して他者の人権を侵食する権利を持たない。
ただし、人権の内容はパラダイムが決めるので、一定ではない。

実はこの論理はニセ科学批判にも使えるが、それはニセ科学について真剣に考えるとおのずと理解されるのでここに書く必要はないと思う。

物事の本質を覗いてみようというお話。