学問の小部屋

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ラヂオの時間・オン・デマンド

radikoによるAM/FM/短波ラジオ放送のネット配信が始まって半月ほど経った。
そのクオリティは、状態のよいFM放送を高品質なチューナーで受けた場合を除き、それ以外の場合では既存のラジオ受信機など足元にも及ばない。
特に廃れたと思われたAMステレオがこのような形で復活し、威力を発揮している姿は見ていて爽快である。
無駄に高価で冗長なチューナー機器が無用の長物と化したことは痛快の領域である。

この試みは、既にあるネットラジオ配信と技術的にはあまり変わらないとはいえ、放送という形態を取らずに通信で配信するということには決断が必要であったろう。
というのは、このような方式で無料で配信するということは、既存のラジオ受信機の売り上げに大きく影響するからである。
もはやパソコンで気軽に高品質なAM放送を受信できて受信機すらいらない、最近ならiphoneなどで街中でも受信可能となれば、もはやラジオ受信機の出番はない。
災害時のためにラジオ受信機を常備しておくとしても、普段の試聴にはネット端末で十分であり、普段の出番がない機器はおそらく廃れる。むしろ、携帯電話や携帯プレーヤにチューナーモジュールが一部組みこまれる程度になると思われる。

いずれは受信可能なチャンネルも全国化して、ビットレートも十分高くなり可逆圧縮で配信されるようになれば、もはやFMチューナも必要ない。
更にオンデマンド配信も技術的には十分可能であり、あとは放送局側の態度次第である。データベースの構築保守には多大な費用がかかるが、ランダムアクセス可能なシステムを一度作ってしまうとあとの保守、アップデートよりも通常放送の維持の方がよほど大変である。

このような状況になると、ラジオはネット配信が中心となり放送事業自体が圧迫される可能性がある。
電波技術について知見のある者であれば、いかに放送局が放送を維持するために莫大な電力を消費し、電波が込み合っているかを理解しているであろう。(鹿島勇は第一級陸上無線技術士有資格者である)ネット配信が中心となったラジオ業界にとって、その効率化のために最も有効な策は最低限のインフラ放送以外は電波を出さないことである。災害時にはNHKだけが放送されていても実際のところ何の問題もない。そのような超効率化体制が実現するためには人々の考え方が変わり、誰もがネットラジオを使いこなす時代となる必要があるため数十年を要する可能性はあるが、通信の進歩は人々の予想よりはるかに速いため、思いがけず早期に実現するかもしれない。

さて、ここで容易に影響が想像されるのは、「テレビ」である。
現在のハイビジョン放送は確かに今回のradikoのような48kbps程度では全然足りないが、あくまでそれは量的な問題であり、おそらくはいずれ解消するものと思われる。
そうなれば、もはや多大な電力と人的労力を消費して電波を輻射するという方法で映像を送る必要などなくなり、ネット回線さえあればテレビ、ラジオ、ネット、電話がシームレスにつながる。
時代の流れを読めばそのような方向に進むことは明らかであろうが、残念ながら人間社会は合理性だけでは回らないので、既存の放送局の抵抗は非常に大きいと思われる。
しかし、現在の放送事業もデジタル化したデータを衛星や電波で飛ばしているわけで、本質的に通信と変わらない。単にそれが無線という非効率的な方法で提供されているだけである。これを局地的な無線化と有線化(家庭内、町内など)に絞っていけば、無駄に大電力を必要とする現在の放送システムは必要なくなり、残るのは軍用、警察用、アマ無線などの非公的無線だけであろう。
そのようになれば、現在の日本人のように無意識にテレビに縛られたライフスタイルは大きく変貌を遂げ、自己責任でネット情報を取捨選択することを自覚したより自立性の高い社会を構築できるかもしれない。
テレビ番組を放送局が編成してくれないと何を見ればいいかわからないなどという甘ったれがワンサカいる現在では到底無理であろうが、近い将来大きなパラダイムシフトが訪れるような予感がある。

ネットを使いこなす人間はネットに振り回されたりしない。嫌なら電源を切ればよいのである。