学問の小部屋

ここは学問の黒板です。

テールピース(緒留め板)、テールガット(緒留め紐)

弦に直接繋がっているテールピースは、それ自体が共振して不要音を生じないことが必要である。 また弦の振動のエネルギーを抑え込んでしまわないように軽量でなければならない。 定番はアクースティクス社製やウィットナー社製のプラスチックテールピースで、新作の場合どんな楽器にもほとんどこれが使われる。 軽量で安価なため別に悪いものではなく、普通はこれで何も問題はない。
しかし、テールピース重量は弦に直接取り付けられる錘そのものであるから、より軽量なものを用意できれば意味があるかもしれない。 その他の材料としてはナツメ、黒檀(エボニー)、紫檀(ローズウッド)等があり、木製品は肉抜きが容易で見た目に味わいがあるため高価な製品によく使われる。 スネークウッド製品もあるが高価であり非常に重くなるため、独特の模様を装飾とする以外に意味がない。 西洋柘植(ボックスウッド)は少し柔らかいがきわめて軽量で、アジャスターを使わず弦をそのまま引っかけるような使い方をしなければ有用である。 強度の問題で裏彫は難しそうである。ヴァイオリン、ヴィオラ用の場合は加重が小さいのでボックスウッドでもあまり問題ない。
ドライカーボンを極薄で使えば最高のように思われるが、残念ながらそのような製品は存在しないようである。 ある楽器店に聞いた話によれば、楽器取扱いのとある商社が超軽量ドライカーボン製のテールピースを試作したところ、音色がスカスカになり使い物にならなかったそうである。 これはバネの物理の基本からして音色の重が上にシフトした結果と考えられる。 おそらくこのような結果になったのは、そもそもほとんどの弦は70g程度のテールピースを使うことを前提に設計試作されているために、そのようなイレギュラーな使い方をするとバランスが悪くなってしまうのだろう。 残念ながら、皮肉な結果であった。
テールピースロープ(テールガット)も基本的に軽くしなやかな物の方がよいことは間違いない。金属線は硬いため表板のエッジを傷める。 量産品では大体ウィットナー製フィッティングのセットのピアノ線か、ナイロン製(〜10g)である。 チェロの張力は50kgにもなるためテールガットはこれに耐える繊維材である必要があり従来の天然繊維ではとても太いものを使うか金属線であったが、 ボア・ダルモニ製品でケプラーを使ったものがあり、これは1g程度と非常に軽量で値段も高くないため評価できる。 鹿島勇は試験的に世界最強の引っ張り強さを誇る「ウルトラダイニーマ」を使ったよつあみ製釣り糸(テグス)10号、耐加重50kgをテールガットとして使用予定である。 二点支持になるため耐加重は最大100kgとなり十分となる。これを使うとテールガットの重量が0.35gにしかならず、ケプラー製品よりも更に強く軽く安価である。