学問の小部屋

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「楽器!」

巷で大人気の四コママンガ+TVアニメ「けいおん!」第二話はバンド活動を始めようとする高校生が楽器探しをする話である。
音楽活動系の作品では最初のほうにこのようなストーリーを挟むことがよくある。

以下はネタバレを含むので、未読の方は本編を読んでから読むことをお勧めする。


さて高1でエレキギターを探そうとする場合、当然ながらネックとなるのはその値段である。
楽器はオーディオ機器などと違って、〜100万円程度までは基本的に値段と性能に強い相関があり、性能自体は高価なものほどよい。もちろん好みや相性の問題はある。

音が出ればいいだけなら激安楽器もあるが、そういうので練習するとおかしな癖がついてしまい矯正に時間を要する。
劇中にも入門用ギターなら最低でも5万円という説明があり、確かにこれは正しい。主人公の平沢唯の予算も5万円、しかし目をつけたのは原作では15万円、アニメ版では25万円のギブソンである。このレベルの楽器は普通、高校生の小遣いでは買えない。

このようなとき、物語ならば何らかの幸運が舞い降りて楽器を入手することが可能となることが多い。案の定、けいおん!でも唯のバンド仲間が店のオーナーの娘だからという理由で大幅値引きされて購入できることになった。

しかし、現実にはそうそううまい話はない。
現実問題として高校生くらいなら補助を受けて5万円という予算はギリギリであり、どんな気に入ったギターがあろうが我慢して予算に収まる安いギターを選ぶしかない。いずれ大学生、社会人またはプロになっていく過程で自分で予算を貯めて念願の楽器を購入するのである。

まともな入門用ギターの最低価格と補助込みの予算の上限が拮抗しているからこそ、モチベーションの高い高校生バンドができるのであり、もし予算が潤沢な高校生が世に溢れていたらろくなバンドは育たないように思う。楽器に対する愛着もありがたみもなく、飽きて捨ててしまうのが落ちであろう。


鹿島勇は中学3年のときに8万円の韓国製S.Yairi フォークギターをひとつ入手したが、中学生の時分には収入などあるわけがなく、当然両親に購入してもらった。当時ここまでの高価な買い物ができるような身分ではなかったから、入手したときは毎日必死で練習したものである。
それまでは、実家に眠っていた大昔の安物クラシックギターを一年ほど使っていた。当然フォークギターとして使えるわけがない。その後受験や一人暮らしのせいで自宅でのギターの練習ができなくなってしまい、しばらく疎遠となってしまっているがいずれはやり直したい。


大学に入って二年生から学内オーケストラに入団してチェロを始めた。
もはや楽器を親に頼るような身分ではないと自分も親も考えたからか、今回は全額自己負担であった。しかし、入門用として示されたチェロの金額はギターの比ではなく、売値で楽器本体が50万、弓が20万というのが相場である。大学から初心者としてオーケストラで使われる楽器を始めようとする場合、中国製でもセットで30万、より本格的なドイツ製の入門用で70万であるから、庶民が気軽に始められるようなものではない。また、オーケストラというものは大学部活でも指折りの金食い虫である。チェロは楽器代が70万、メンテナンスと弦代で5万、団費が1.5万、舞台に上がるための費用が5万、こまめに通うとレッスン代は10万、合宿費三回分15万、交通費が合計5万程度・・・と、次から次へと金がかかり、所属しているだけで年間で最低30万円くらいはかかってしまう。

果たしてこんな金のかかる趣味が、ただやりたいという気持ちだけで成り立つのか?
今から思うに、楽団の周りを見渡してみると金持ちの家庭の子弟は多かったように思う。楽器購入に関してだけでも、小さなころから超高価な楽器を持っている(もちろん自腹ではない)人、家族にポンと出してもらえた人、両親に数十万の前借りができた人、など。

鹿島勇の環境にはこれらの要素はまったくなかったから、楽器代70万を一年間のアルバイトで捻出するしかなかった。
幸いにして最終的に購入した楽器は中古品で個人取引であったため、セット25万円で済んだ。(この楽器は大阪の有名な楽器店で「この40万の楽器よりいい音しとる」と言われたことがあり、自分の技術が申し訳ないくらいよいものであった)

それ以外にも金の問題は楽団活動中常につきまとったのであり、もしこの記事を読む前になんとなく弦楽器を始めてみたいなと思っている高校生、大学生がいたら、自分の経済力をよくよく考えてほしい。

もちろん大学の部活として成立しているのだから、経済力がなくてもかなり努力すれば学業と部活を両立することは可能である。ただし、そのために大きな犠牲を払わなければならないということも、覚えていてほしい。

さて話をけいおん!に戻すと、安易にこういうデウス・エクス・マキナを使うのではなく、楽器入手のために一年費やしたというような作品もあっていいのではないか、と思う。
けいおん!の作風はリアリティを追求しているものではないからこれにそういう部分を求めているのではないにしろ、下積みを見せない青春劇は場合によって白けてしまい、面白くないものになりがちである。

「スゥイングガールズ」、「のだめカンタービレ」等、実際に楽器を触ったことがある者からすればこれはリアリティがない、あるいは共感できるという部分が一目瞭然である…という、要は音楽は金がかかるというお話。