学問の小部屋

ここは学問の黒板です。

日本家屋の一般論

前回、仏壇と暖炉について少し書いたので、今回はもっと一般的に日本家屋について書くこととする。

  • 伝統的な住宅

まず、日本家屋は伝統的に吉田兼好著「徒然草」の

家の造りやうは夏を旨とすべし。冬はいかなるところにも住まる。 暑き頃わろき住居は堪へ難きことなり。

という記述に則った形態をとっている。合掌造りとか沖縄の石造低構とか、各地域の伝統的建築方法はあるとして、一般にはそうである。
アフリカやアラブの国々のよう高温乾燥な夏であれば日陰に入るだけでかなり暑さをしのげるのに対して、日本は温帯の温暖湿潤気候に属しているため夏場は高温多湿となり、日陰に入ったところで蒸し暑くそのままではいられないことが多い。
即ち、エアコンのなかった時代に日本の暑さに対応するためには、単に日差しを避ける構造の家屋にするだけでは不十分で最大限風通しをよくする必要がある。
これに対応するためには、打ち水できる庭に面した縁側を備えて、部屋の仕切りは襖や障子のような大きい間仕切りを用い、窓も大きくしていざとなれば全面開放型の構造にできる建築設計を必要とする。これらは気候に合わせたひとつの解である。
ただし、このような家屋の構造は大きな欠点をひとつ備えている。夏を基本として考えているために、通気性はよいが断熱性に乏しく、冬場は凄まじい寒さに襲われることになる。
部屋を仕切るのが障子や襖であるのと、石壁であるのとでは断熱性に雲泥の差がある。
しかし、昔の生活を考えればエアコンがない状態で暑さと寒さのどちらをメインで対策するかといえばやはり暑さである。冬場は厚着をして囲炉裏を焚いておけば凍え死ぬというところまではいかないだろう。逆に寒さの厳しい欧米では石造りの断熱性の高い建築が適しており、石造りの暖炉などにも意味はある。

また、日本は地震国であるからどこの住んでいても数十年に一回は大地震がやってくるし、地震を全く感じない年などはないだろう。
地震対策のためには、石材などの硬い素材ではなくて柔軟な木材が適している。また、木材は比強度が高いので重い日本瓦の屋根を支えるのにも適している。
対して地震がこない大陸中央部などの建築では、石材を使った方が断熱性と強度が得られる。一般に寒さ対策のために窓は小さく作る。
アラビアなどでは、日干し煉瓦を積み重ねただけの家屋も存在する。それは雨が降らなく、偏に地震対策をする必要がないからである。

  • 現代の住宅

さて、伝統的な話を踏まえた上で現代の家屋について考えてみよう。
現在ではエアコンや建材、断熱材の発展により暑さ寒さはかなり軽減できるようになってきたと言える。機構にしても地震対策設計もかなり研究が進んできた。
見た目の問題は別にして、エアコンを使うことを前提にするならば、伝統的な開放型の建築設計を採用する必要性は何もない。むしろ高断熱高気密設計の方が、冷暖房のエネルギー効率を考えると電気代を節約できる。既存の家屋の場合も、天井裏にグラスウールなどの断熱材を仕込むリフォームを行うだけでもかなりの断熱性は得られる。(壁の中に断熱材を仕込むのは新築以外では難しい)

もうひとつは屋根の進化である。日本家屋で太い柱が必要な主要因は、日本瓦の重さにある。
確かに重い瓦は見た目もよろしく、台風でも飛ばされにくいものではある。ただし、柱に負担をかけるものでもあり、もっと軽い瓦を使えば柱を細くすることもできるので建築費用の低減につながる。工法の発達により新素材で軽い屋根でも台風に強いものは既に存在するので、今から新築するのに日本瓦を採用するメリットはあまりない。
ただし、スレート瓦については耐久性に疑問が残る。一般に五年、十年のスパンでスレートの塗装が剥がれてきて、腐食が進むと結果として雨漏りを呼び込むことになる。スレートを採用するならば、十年程度で塗りなおしをすることが必要である。
新築するならば日本瓦でもスレートでもなく、高品質な新型の瓦を採用することが望ましい。これならば軽く、強度があり、耐久性もある。

もうひとつ、せっかくなのでホームシアターについて書いておこう。鹿島勇は専用オーディオルームという存在を日本の住宅事情の中で認めていない。むしろ大画面テレビを中心としたホームシアター、またはリビングシアターという解が、AV趣味を持つ者にとってもその家族にとっても幸福な選択であると考える。
現代住宅ではリビング・ダイニング・キッチン(LDKという和製英語)構造が採用されることは多いので、これにシアター(T)を組み込むことを考える。
多くの場合リビングにはテレビがあるだろうから、この両脇にスピーカー、スペースがない場合は天吊り型を採用し、テレビの下にでもサブウーファーを置いてやれば特に場所を取らずにホームシアターを構築することはできる。スピーカー等の選定については視聴覚室のページに色々と書いたから、そちらを参考にして大型のものを選んでもそこまで大変な設計にはならない。このとき定在波に気を遣いながらカーテンなどをうまく使って吸音構造を実現し、ヘルムホルツ共鳴で反射音を殺してやれば、リスニングルームとしてもよいものができるはずである。巨大オーディオ装置は、AV趣味を理解しない者にとってはゴミでしかない。しかし、テレビの音声が嘘のようにリアルに聞こえたり、自宅の映画鑑賞のグレードが著しく高まったりすれば、評価を覆すことはできるかもしれない。


さて、話を戻して・・・伝統的な住宅の見た目が好きだ、という人間はそれでいい。寺院なども今の形態を変化させるというわけにはいかないだろう。それらは文明よりは文化の担い手だからである。(内部構造は変化していくだろう)
しかし、日本の一般的な住宅へのアプローチは技術の進歩とともに変化していくべきだと鹿島勇は考える。
現時点では高断熱で軽い屋根の住宅を選択すべきであろう。
伝統的な住宅も改造を行うことで現代的な住宅にリフォームすることは可能かもしれない。それはそれで色々と難しい問題が出てきそうである。

これからの日本は、高齢化と少子化の影響で短期的には人口減少が著しくなり、住宅は余ってくることが予想される。そのようなとき、現代的な中古住宅を購入してリフォームすることを考えるのはひとつの解になると思われる。

さて、次回の一般論シリーズは・・・日本の未来像を考えている。人口、住宅、都市設計について論じることとしよう。