学問の小部屋

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定電圧駆動アンプ

スピーカーを鳴らすために必要な電流を増幅する装置をパワーアンプと呼ぶ。本ページでは、電力増幅、またスピーカを負荷とする際に特有の問題について述べる。
現代のパワーアンプの周波数特性は、可聴域を十分にカバーしており、本来周波数帯域が不足することはない。また、信号の歪み率も0.1%以下などと十分に高性能なアンプが普及している。しかし、スピーカを負荷とするパワーアンプは、正確な信号伝送のほか、スピーカを経由して空気を振動させるという特有の事情があり、DCモーターを負荷とする電源や、アンテナを負荷とする高周波用アンプとは異なる要素がある。

ダンピングファクター(DF)

動電型スピーカは入力インピーダンスが周波数によって大幅に変動するので、パワーアンプの出力インピーダンスとスピーカの入力インピーダンスの比は周波数によって変化する。出力インピーダンスが低くどのような負荷にも一定の定電圧出力を供給できる信号源を定電圧駆動アンプという。(ここでは負荷変動に注目しており、いわゆるDCの安定化電源における定電圧モードとは意味が異なる)通常のパワーアンプは、いかに定電圧駆動アンプに近いかがポイントとなる。その性能を評価するためにダンピングファクターという指標が用いられる。
DFの本来の定義は、スピーカーの定格インピーダンスをアンプの出力インピーダンス(内部抵抗)で割ったものである。 例えば定格8Ωのスピーカーを出力インピーダンス(Raとする)0.1Ωのアンプで動かしたとき、DFは80となる。 DFはスピーカーの制動因子、アンプの安定性を示す一つの指標となる。 実際にはスピーカーケーブルのR抵抗、C成分、R成分、接触抵抗、スピーカーのインピーダンス変動、ケーブルの表皮効果、更には温度変化による抵抗値の変化といった要素から、計算値を必ずしも反映しない。 以下の計算のRaの値はそれらを全て盛り込んだインピーダンスとする。

まず、アンプから入る信号電流Iによるスピーカボイスコイルの駆動力Fは、電磁力の式F=IBLから求められる。
アンプに接続されたスピーカのボイスコイルが動くと、電磁誘導によりアンプを負荷とした起電力が発生する。これを逆起電力(Vr)と呼ぶ。
ボイスコイルが為す仕事(Ws)はオームの法則からWs=Vr^2/Ra、同値変形してVr=sqrt(Ws・Ra)となる。即ち逆起電力はRaの1/2乗に比例して大きくなる。
逆起電力に伴う逆電流(誘導電流)Irを考えると、エネルギー保存則からWs=Vr*Ir、同値変形してIr = Ws/Vr = Vr/Raとなる。 磁界中の逆電流は、やはり電磁力の式から、Fr = Ir*BLとなる。ここで、逆電流Irは常にアンプによる駆動電流Iと逆向きになので、Frの符号はFと逆になり、合計のスピーカのボイスコイルにかかる力Ftは Ft = F - Fr = (I - Ir)*BLとなるから、アンプが意図した駆動力Fに対して、スピーカーの動作にはIrに比例した電磁制動がかかる。
Ir = Vr/Raであったから、Raが小さいほどIrは大きくなり、強力な電磁制動がかかる。これは簡単に実験で確かめられる。スピーカーを単体で持ち、端子をショートさせたとき(負荷0Ω)と開放した場合(負荷∞Ω)でコーンを手で押してみると、ショートさせた方が振動板が重く感じられる。
もしRa = 0ならばIrは無限大で制動力も無限大となり、スピーカーは動かない。Raを0に近づけるとDFの値は無限大に近づくが、実際には制動力は無限大にはならない。スピーカーの入力インピーダンスが今度は出力インピーダンスとして振る舞うので、通常のスピーカでは4Ω〜8Ωといった内部抵抗が常に存在する。よって、ボイスコイルの抵抗値はスピーカー自身の音質差の原因となる。科学技術研究用に試作されている超伝導スピーカでは、ボイスコイルのDCRはゼロになるが、やはりケーブルやアンプの出力インピーダンスまでゼロになるわけではないので、Irは無限大にはならない。
電気抵抗値による電磁制動は大きなファクターであるが、スピーカの制動は機械制動との合計で考える必要がある。なお、Raが無限大で電磁制動が全くない状況であっても、エッジとダンパー、空気抵抗の機械的制動因子があるので、一度起振されたスピーカーが無限に振動するわけではない。例えば1kHz以上の高周波では空気制動が十分な役割を果たし、電磁制動はあってもなくてもあまり状況は変わらない。ダンピングファクターの議論とは、主にウーファによる低音再生において重要となる。

DFの違いによる音の変化

DFの変化は振動系の制動力に影響し、スピーカー運動の過渡特性の変化が起こる。
まず、極端にDFが低いとき(出力インピーダンスが1000Ωなど)は、アンプにとってのトータル負荷インピーダンスがほとんど変動しない(合計1000Ω+4~8Ω)ので、定電流駆動に近づく。その結果、スピーカのインピーダンスに応じた電圧がかかるので、通常の動電型スピーカでは周波数特性の低域と高域が持ち上がり、いわゆる”ドンシャリ”に変化する。
DFが高いと負荷インピーダンスに対する駆動電圧変動がほとんどなくなり、意図通りのスピーカ駆動が可能となる。スピーカメーカーでも、定電圧駆動を前提としてスピーカを設計しているので、周波数特性はフラットに近づく。
ところで、8Ω負荷に対するDFが100、あるいは1000のアンプの出力インピーダンスを計算すると、それぞれ0.08Ω、0.008Ωとなる。この差は0.072Ωしかないので、ケーブルの接触抵抗などにより簡単に差が埋まる。よって、むやみに高いDFを求めても意味はなく、実測0.1Ω程度の出力インピーダンスが得られていれば、それ以上のDFを求める必要はない。
ただしこれは、アンプとスピーカを直結したときの話である。 スピーカ内部にネットワークがある場合はその分のRが加算される。 例えばウーファーに直列に入ったコイルの直流抵抗はかなり大きくDFを大幅に劣化させる。ネットワークによるインピーダンス増大があればあるほど、アンプのDFに注意を払っても意味がなくなっていく。ネットワークの影響を排除するには、一部のアクティブスピーカやチャンネルディバイダを使用することでパワーアンプの前段でネットワークを組み、パワーアンプとスピーカはなるべく直結するのが望ましい。

さらに強力な制動を求める際に使用されるMFB方式のアンプについては、
電流駆動アンプ
に記載する。

インピーダンススピーカ

市販のパワーアンプの既定負荷は6Ω〜16Ω程度であることが多い。定格よりも低インピーダンスのスピーカはアンプに過大な電流出力を要求することになる。アンプの負荷インピーダンスは定格出力における耐熱性で決まっており、スピーカではなくアンプの安全のために規定されている。そもそも6Ωや8Ωといったスピーカのインピーダンスは駆動力を生み出すL成分ではなくコイル線材のDC抵抗成分で、出音には制動以外には寄与しない。もっとも、単純な半導体アンプではなく現在のアンプICであれば、過電流保護機能として焼損する前にアンプの電源が落ちる安全装置が供えられていることが多い。
小出力ならば既定6Ωのアンプに4Ωスピーカを繋いで問題が起こることはほとんどないが、自己責任である。極端に低いインピーダンスの2Ωや1Ωのスピーカは、カーオーディオ用のウーファ製品に見られる。電力には余裕があるが車載用アクセサリ電源を使用するカーオーディオ用アンプはDC12Vで動作するので、車載ウーファの大音圧を実現するには、アンプのBTL化と低インピーダンススピーカの採用が必須となる。よって、カーオーディオ用アンプには、低インピーダンス負荷を想定としている製品がある。
逆に、既定より高いインピーダンスのスピーカを繋いでも安全上の問題はない。
高い電圧の電源を用意できない機器では、低い定格電圧でも定格W数を高くできる低インピーダンススピーカを採用することがある。この際には、アンプの発熱が高インピーダンススピーカよりも大きくなるので、注意深く動作温度を評価する必要がある。
なお、スピーカーのインピーダンス計測は通常は定電圧駆動を想定するが、故長岡鉄男氏のインピーダンス計測法では定電流駆動を基本としており、測定法が明示されていないときは慎重に解釈する必要がある。

十分なアンプ出力

現在未記入

アンプの製品例

実際に手にしたことのある市販アンプ等について紹介する。

Topping TP-60

中国メーカー製のPWM方式小型D級アンプ。トライパス製(を元にした)アンプICが使われている。2chのアンプで小型軽量のモデルを探したところ本製品に行き当たった。

SONY TA-F501

小型軽量なSONY製のPWMフルディジタルアンプで、2ch50W(BTL)出力可能。ゲインコントロールに理想的な電源電位制御方式が採用されている。付属マイクによる音場計測、PEQによる音質補正が可能である。仕様ではディジタル入力端子は48kHzまでとなっているものの、実際は96kHz、192kHzでも動作する。192kHzではSPDIF信号を入力してから認識するまで少し時間がかかる。
出力信号をオシロで見ると、搬送波カットのフィルタがしっかり入っておらず、時間波形はかなり汚い。(それにより聴覚上の違いが出るわけではない)また動作原理的に負帰還をかけられないので、聴覚で判別できるほどダンピングファクターが低い。
AVWatchのTA-F501の記事によれば、
1.ヘッドホン出力用に専用S-MASTER Proアンプを用意していると書かれている。実際はJRCオペアンプNJM4565Mが使用されている。
2.ボリュームが電源電位制御方式であれば、入力信号のレベルを上げなければクリップしない。実際はディジタルボリュームになっているらしく、ボリュームを0dB以上に上げると信号がクリップすることがある。
以上についてSONYサポートに問い合わせたところ、まったく回答が得られなかった。また、ジャーナルの内容は、たとえSONY社員を名乗る者の話でもSONYの公式発表ではなく、サポートしないという返事であった。しかも内容には回答しないという応答を得るのに質問してから3ヶ月ほどかかった。
AVwatchなどでメーカーの名前が出ている(提灯)記事は、メーカーの認可、内容チェックがないと公開できないので、AVwatchはSONYからのお墨付きをもらっているはずである。このような経緯から、SONYのAV事業部とサポートは信用できなくなった。
それに対して、以前Panasonicにアンプの細かな仕様を問い合わせたときはサポートが丁寧に対応してくれた。メーカーの姿勢が現れているようである。

Panasonic SA-XR55(2005年6月購入)

パワー段にTi製PWMアンプICを採用したフルディジタルPWMアンプである。
メーカーに問い合わせた結果の返答メールによれば、 出力インピーダンスは負荷インピーダンスが6Ωと仮定して0.19Ωで、DFは1kHzで大体30〜35となるそうである。
リモコンでボリューム調節、入力切替が簡単にできる。それなりに安価で、重量も軽くコンパクトで取り扱いやすい。デザインはPanasonic DIGAなどと合わせてあり、個人的にあまり好きなデザインではない。 アンプの設定方法が単体ではわかりにくい(しかしこれは購入当初に説明書を見ながらやればよいだけなので、特に問題にはならない)。
使い勝手のよいアンプであったが、その後アクティブスピーカを主に使用するようになり放出した。

カマデン社のディジタルアンプキット、トライパスTA2020KIT

2ch、出力20W+20W(IC内部でBTL化)、重量:200g程度
2004年当時、カマデン社が販売していたPWMディジタルアンプキットである。
出力インピーダンスの実測記事によれば、TPA2020本体で既に0.4Ω程度あり、キット付属のコイルの直流抵抗が0.15Ω程度で、トータルで0.6Ωになっている。 ここまでDFが悪いと聴覚上の差も十分生じるレベルとなり、検討の末使用を停止した。

BGW SYSTEMS PROLINE II 7500

USA製の業務用アンプ。重量17kg、出力4Ω300W(BTL可)の割りにファンレスと凄まじい仕様。ヒートシンクが大きく、いかにもな業務用アンプである。 プロ用のためバランス入力仕様になっている。当初サブウーファーに使っていたが、電流帰還を本格的に実装するためにYSTアンプに切り替えた。

SANSUI(山水電気AU-607KX

大学2年のときに初めて中古入手した単品アンプである。電源を入れるとトランスが「フォーン」と唸るのが気になった。入力経路切り替えの部分に接触不良があったようで、放出した。