学問の小部屋

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電流駆動アンプ

通常のオーディオ用パワーアンプは、スピーカ負荷の変動に関わらず同じ電圧を出力する定電圧駆動アンプに近い。それに対して、電流駆動アンプと呼ばれる特殊なアンプがある。電流駆動は曖昧に理解されていることが多いようで、正確に理解できるように以下に三種類を分類して紹介する。

定電流電源アンプ(DC)

出力インピーダンス(内部抵抗)が高く、負荷がどのように変動しようとも設定された電流値を出力する定電流電源は、測定器として重要である。安定化電源の機能として使われる。考え方は次の「電流負帰還型電流出力アンプ」と同じでであるが、定電流電源は電流負帰還型とは限らないので、別枠としした。

電流負帰還型電流出力アンプ

原理は古くから知られており、本来はモーター負荷などを動的に制御する(アナログサーボ)のに使われる。動電型スピーカは自己インダクタンスによる影響で高周波でのインピーダンス上昇が見られるほか、f0共振部で顕著なインピーダンス上昇が見られる。このようなスピーカのインピーダンスカーブに応じた電圧が出力されるので、定電圧駆動アンプよりも所謂ドン・シャリな傾向になる。
電流出力アンプでスピーカのインピーダンス特性を測定すると、定電圧駆動アンプとは結果が異なり、制動が効かないことでf0共振峰が大きくなる。それに合わせてf0近傍の振幅も大きくなり、一般に非線型効果が大きくなる。

電流正帰還MFBアンプ(AST、YSTアンプ)

ヤマハが1989年に開発したASTアンプ、現在のYSシステムは負性インピーダンス回路をアンプ部に仕込み、 スピーカーのボイスコイルのRの温度上昇による変化と温度係数を一致させた電流検知回路を使うことにより、アンプの出力インピーダンス、ケーブル、ボイスコイルを合わせたトータルのインピーダンスを等価的に0にする方法である。 (正確にRaを0にしてしまうと発振してしまうので、実際は1ΩほどRaを残すそうである。) かつてヤマハは自社製スピーカー専用の負性インピーダンス回路搭載カートリッジ交換方式によるアクティブサーボテクノロジー(ASTシステム、後に商標の問題が出たらしくYSTと改名した)を提唱したが、普及しなかった。現在もYST方式はヤマハのアクティブスピーカ、サブウーファに受け継がれている。
電流正帰還方式では、スピーカーを通った信号電流を適当な分圧比をとった抵抗を経由してアンプの非反転入力に入力して正帰還をかける。アンプの出力インピーダンスは負性抵抗の性質を示し、スピーカのインピーダンスと合成して、差し引き0となる。電流正帰還によりスピーカのf0共振が抑えられ、共振のQが下がる。定電圧駆動アンプと動電型スピーカの組み合わせでは、Q=0.7程度のf0共振を利用してf0近傍までフラットな音圧の周波数特性を実現するが、共振のQが下がることでf0共振峰は見えなくなり、音圧の周波数特性はスピーカの放射インピーダンスを反映した6dB/octのHPF特性に近づく。同時に共振のQが低くなると減衰時間が小さくなるので、結果として定電圧駆動時よりも強い電磁制動をかけられる。
電流正帰還の最大のメリットは、音圧の周波数特性がf0共振に左右されず、常にほぼ6dB/octのHPF特性となることである。これは、電流正帰還アンプに入力する信号に-6dB/octのLPFをかけることで、超低音領域までフラットな音圧の周波数特性を実現できることを意味する。LPFをかける周波数が低いほど周波数特性はフラットになるが、その分LPFのカットオフ周波数が下がり信号レベルも下がるので、出力信号レベルを確保するのが難しくなっていく。よって、スピーカの寸法が同じ条件でより優れたサブウーファを電流正帰還方式で実現するには、大出力アンプが要求される。

このように、電流正帰還アンプは通常の動電型スピーカを使用したサブウーファには効果的な手法であるので、電流正帰還MFBアンプの製作を試みた。

その他の方式のMFBアンプ

MFBには電流正帰還方式の他にも、検出コイルをボイスコイルとは別に用意する方法、スピーカー内部やユニット直前にマイクを仕込んで拾った信号(加速度信号)を帰還させる方法、レーザーを振動板に当てて動きを光で読み取る方法などがある。
検出コイルを使用する方法は、カーオーディオ用のDVC(ダブルボイスコイル)スピーカで容易に実現可能であるが、検出コイル分の追加質量を振動系に要求する。
また、三菱電機の車載用ウーファSW-G50では、17000ガウスの磁気回路で強力な電磁制動を実現し、「マグネサーボ」の名前を与えている。MDBによるf0共振峰のQの低下と強力な磁気回路によるQの低下は、電気-機械インピーダンスの等価回路に記述すると結果は同じになるのでマグネサーボと名付けたと、ダイヤトーンブランド顧問の寺本浩平氏から直接伺った。

電流帰還参考サイト

アナログ回路の基礎 いわゆる電流出力アンプ(電流負帰還型電流出力)が紹介されている。
電流正帰還によるMFBの原理電流正帰還を施した場合、検出コイル方式の場合の波形が示されている。